結論から言えば、音楽制作におけるアレンジ(編曲)というプロセスは終わることはないが、職業としてのアレンジャー(編曲家)は、近い将来に本当に「おわコン」になる可能性は高いと思う。
正確には、近い将来は「アレンジしかしないよ」と言う人には仕事のオファーが来なくなるかもしれない、ということだ。
演歌歌謡曲業界でさえ、現在は俗にいう「書き」しかしない、詳しく言えばスコア(総譜)を書いてスタジオでオーケストラを指揮するプロセスしか出来ないアレンジャーは、大御所と言われる著名なアレンジャー以外にオファーがあまり来ない状況だ。
CDのセールスが落ち込んで制作費があまりかけられない現在の状況では、オーケストラの生一発録りはコストがかかり過ぎて、新人やヒットの出ていない歌手にはハードルが高過ぎる。
ひと昔前ならば「コンピュータマニュピレータ」という職種の人にスコアを渡して「打ち込み」をしてもらっていたのであるが、そのコストでさえ捻出するのが厳しい状況になってきている。
今求められているアレンジャーの最低限のスキルとして、「打ち込み」が完パケレベルで出来て、尚かつスコアの「書き」もオケの指揮もできることであろう。
それも「演歌歌謡曲」「劇伴」での話で、ロック系やテクノ系やHipHop系ではそもそもアレンジャーは存在しない。
DrumsやBassやGtrなど、所謂「リズム隊」や、シンセサイザーによる「打ち込み」やターンテーブルで成立する音楽で、演奏や打ち込むミュージシャンのそれぞれの「ヘッドアレンジ」能力で、セッションすることで生まれる音楽だから、スコアを書くアレンジャーは必要としない。
確かにスコアを書くなどのスキルが必要な、ストリングスやホーンセクションを入れたいときに、「ストリングスアレンジ」とか「ホーンアレンジ」とかのアレンジャーのクレジットが時々あるにはある。
しかし、基本的には「サウンドプロデューサー」や「レコーディングプロデューサー」と言われる人が、アレンジも含めたレコーディングに関わるすべてをコントロールすることが一般的である。
2000年代くらいまでは、そのプロデューサーがいろいろな人材を集めたりして、分業化されたプロセスをコントロールをしていたのだが、時を経ると共に少しづつ兼務するプロセスが増え、極力少人数のプロジェクトになって来ている。
勿論テクノロジーの進歩もあるが、音楽業界が大転換期を迎え、今までのやり方では事業としてなりたたないからであろう。
演歌歌謡曲業界と劇伴業界の一部は、1970年代に完成されたスタイルを、少しづつ変化はしているにしても、現在も引きずっている。
なのでアレンジャーという職業も何とか成立している。
しかし、これからは他のプロセスである「打ち込み」「録音」「Vocal編集」「トラックダウン」などのスキルを必要とされている。
この業界でも、アイソレーションされた録音ブースのある自宅スタジオを持っているアレンジャーが増えて来ている。
実際に、打ち込みメインのアレンジで一部生楽器差し替えの場合、自宅スタジオで生楽器のダビングのオーダーを請け負う事が、もう当たり前になりつつある。
僕も自宅スタジオを持ち、録音、Vocal編集、トラックダウンのプロセスもアレンジ以外に請け負っている。
というより、アレンジだけではメシ食っていくのは難しい。
それだけでなく、有望な新人シンガーを発掘したり、作詞作曲などの方面のスキルを上げて行かないと、時代に置いて行かれそうな気がする。
少なくても「大変な時代になった」「昔は良かった」なんて嘆いている時間があったら、必死にスキルを磨かないと本当にメシが食えなくなると思う。
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